白馬江と釣龍台

韓国:忠清南道扶余郡

唐の将軍蘇定方が、大軍を率いて、百済の都を陥落させた後のこと。戦勝を祝う中、大王浦にあった唐の兵船が突然流れ出し、いきなり吹き出した颱風で皆川に沈んでしまう、という事件が起きた。

蘇定方が日官(暦法官)に伺うと、日官は百済の守護神である江龍の怒りだと告げた。ではその退治法はないかと蘇が問うと、日官は、龍は白馬が大好きだから、それを餌にして釣り上げればよい、と答えた。

さっそく蘇は兵たちに命じて鉄の釣針に太い鉄線の釣糸を用意し、白馬を餌にして川の岸にある岩の上に座ってそれらを川に投げ入れた。はたして日官の言ったように、程無く白馬を捕ろうとした龍が釣れ、蘇らに捕らえられてしまった。

このような出来事があったので、蘇定方が龍を釣った場所を釣龍台といい、さらに錦江の扶余一帯の川を、白馬を餌に龍を釣ったとして、白馬江と呼ぶようになったのだという。

崔仁鶴『朝鮮伝説集』(日本放送出版協会)より要約


百済の守護神が龍だったと、さらっとすごいことを語っているが、今回はそこはさておき、餌となる馬である。北欧の雷神トールは牛の首で世界蛇ヨルムンガンドを釣り上げたが、蘇定方も大したものだ。さすがは「烈」の名を持つ将軍といったところか。

「釣り針」と言っているのだから食いついたのだと思うが、そうなると「好き」は好きでも以下のような龍が白馬と交わったというような話とは意味が違ってくるだろう。もっとも、これは供犠が持つ二つの面でもある。入水して竜蛇に供される娘にもこの二面があることをつなげて考えられたい。

尹氏淵
北朝鮮:平安南道順川郡:尹剛の飼っていた白馬の前に青龍が現れ白馬と交わった。

さらに一方で韓国朝鮮の竜蛇の中には、「馬の血を嫌う」存在もあった。これはすでに紹介したが、法聖洞のウルソー(沼)の悪龍イシミーの捕らえ方は、イシミーが嫌いな馬の血で追い詰める、というものだった。

ウルソーの悪龍
韓国:慶尚北道大邱広域市:法聖洞のウルソー(沼)にイシミーという悪龍がいた。これは白馬の血で追い詰めて捕える。

これはどこかでそのベクトルの逆転があったが故、というよりも、もともとそのような両義的な関係が竜蛇と馬の間にはある、ということじゃないかと今のところは考えている。ちなみに、本邦の神一般にも馬の奉納と馬の禁忌の双方が見えることも覚えておきたい。