龍岩山のおろちとむかで

韓国:慶尚北道栄州郡安定面

慶尚北道栄州郡安定面女勒洞から一キロ離れたところに、龍岩山と呼ばれる山がある。この山を境に、北には「ノザ」南には「ソンコク」と呼ばれる村がある。この両村をつなぐ道というのはたった一つだけである。おまけにこのひとすじの路の中間地点に、昔は大きな池があってそこの岩におろちが住んでいた。また池のほとりには岩がたくさんあってそこにはむかでが住んでいた。そして、このおろちとむかでは人間が通ると容赦なく喰い殺したのである。つまり、人間が通るときもし鳥が鳴くとおろちが現われ、もし鵲が鳴くとむかでが現われて人間を襲うという。

ところが、その後のある日、雷が落ちてきた。あっという間に池が埋もれてしまい、岩が壊れてむかでも岩に押えられ、死んでしまった。そのとき、むかでの血で岩が赤く染まり、今もその跡があるという。さらに今もむかでの子は生きているといい、その大きさはかますの半分ぐらいだという。

慶尚南道河東に、金島山という山があり、この物語の洞穴はその中腹にある。今は「星月洞窟(ピョルダルトングル)」と呼ばれていて、春になるとその内外に赤いつつじが一面に咲き乱れるという。

柳増善採集 一九六六年一月
黄永来(男六八)慶尚北道栄州郡安定面女勒洞

崔仁鶴『朝鮮伝説集』(日本放送出版協会)より原文


大蛇(またはむかで)退治伝説
韓国:全北全州郡完山町:娘に育てられたひきが、大蛇の生贄に選ばれた娘を助けるため、大蛇と戦う。

韓国朝鮮の百足と竜蛇は「どちらでもよい」と混同されてしまうことがあるが、ここではセットになって同じことを同じ場所でしている。「有耶無耶の関」と一脈通じるところもある気がするが、一体どうしたわけで大蛇と百足がかわりばんこに人を喰わないといけないのかというと、よくわからない。

いずれにしても、このような話からは竜蛇と百足が不倶戴天の仇敵同士にあたる、という感じは受けないだろう。やはり似たものだからどちらであっても話は通る、という雰囲気である。これは日本でも、また中国でもあまり見ない感覚なので、よく覚えておかないといけない。