横槌蛇

愛媛県四国中央市内:旧伊予三島市豊坂

伊予三島市豊坂の岩原瀬に、むかし明剣さまという神社がありました。
そのお宮のお使いに、面白い格好をした蛇がいました。わらを打つときに使う木で作った横槌に似ているので、人々はその蛇を横槌と呼んでいました。

その蛇は人を見ると、必ず上から下に向かってころころ転げるのですが、また不思議なことに、この蛇を見た人も、きまったように転ぶのです。転んだとたんにすぐ跳ね起きて平気な顔をして歩くと、幸せが訪れ、金持ちになるのですが、ぐずぐずしているとだめになって貧乏になるというのです。

そこで村人は早くその面白い横槌の蛇に出合い、すぐ転んで、すぐ起きて、大金持ちになり、また幸せ者になりたいと思っていました。

『伊予三島市史 上巻』より原文


槌の子狸
徳島県美馬市:夜になると槌が転がってきてまとわりつく。そういう子狸の悪戯があった。

この「槌の子狸」のように、四国ではつちのこも狸になってしまったりするものだが、伊予三島ではきちんと「蛇」といっている。明剣とは岡山県小田郡矢掛町の例に同じく妙見だろうか。

また、伊予三島でも川滝の方では、「たてくりかえし」様の転がる立臼の怪(大蛇)が討伐されているが、こちら豊坂の横槌の蛇と同種なのか別物ととらえられるのかは興味のあるところである。

大蛇を退治した与一
愛媛県四国中央市内:旧伊予三島市川滝町:狩の名人兄弟が立臼や大鹿に化けた大蛇を討つ。

また、その横槌の蛇が条件次第で福富をもたらすとなっているのも面白いところだろう。各地のつちのこの伝承に関して、このモチーフはあまり見られないように思う。つちのこはまた、横槌であるほかに藁苞のイメージを持つモノでもあるのだが、藁苞であるならば中に富が詰まっているという方向からつながってもおかしくない問題ではある。