金の機織機

千葉県香取市内:旧栗源町岩部大畑

大畑の大塚古墳は高さ十メートル以上、直径七十から八十メートルある円墳である。栗源では最も大きい古墳で、千葉県下でも大きい部類となる。この大塚には「金の機織機」が埋まっているといわれている。

古墳時代に岩部には織物職人たちが住み、その氏上(首長)が使っていたのがその金の機織機であるという。奈良正倉院御物中には、岩部から献上された布が保管されている。

『栗源町史』より要約


竜蛇は出てこないが(実は別途出てくるが)、これも織姫と竜宮にまつわるイメージの一端となる伝承である。ことに椀貸し伝説との関係で覚えておきたい。多く膳椀を貸してくれるのは水辺であり、淵底の竜宮なのだが、これが陸上の(水辺ではない)何らかの「穴」であることがままある。

狐穴だということもあるが、塚穴が膳椀を貸してくれるということもある。つまり、古墳の開放口は竜宮を代替することがある。そうしてみると、ここ栗源(くりもと)大畑(この地名も大機がもとであったという伝がある)の古墳に機織機が埋まっているという話が近しいものであるのがわかるだろう。膳椀を貸してくれる竜宮の姫はたいがい機織姫である。

なお、現状意味はわからないが、その機織機が「金」であるというところも覚えておきたい。これは金鶏が埋まっている塚、という各地の伝承に連なる可能性がある。また、この金の機織機は「金の機足(機脚・はたし)」とも書かれるが、関東では昔機織機をよくそう記した。これは、「いざり機」との関係を見越してメモしておきたい。

ところで、この大塚古墳は一方で白大蛇の首を埋めた塚である、という伝もある。金の機織機の伝とはその背景となる時代もまったく違い、関連は不明だが、併せて見ておきたい。

白蛇の首
千葉県香取市内:旧栗源町岩部大畑:白い大蛇を恐れた村人たちがこれを退治し、首を埋め大きな塚を築いた。これが大塚である。