マッティブの話

鹿児島県大島郡徳之島町

婆さんが、隣に住む娘が夜中になると笑っているので、何かと覗くと、マッティブが向かいに座っている。そこで翌日尋ねると、夜青年が来ているが、誰かはわからないという。婆さんは、それは当たり前の人間ではない、つわぶきで糸をうみ、針に通して男の脇に刺してみろ、と教えた。

娘が教えられたとおりに針を刺し、次の日その緒をたどると、中から話し声が聞こえた。人間の所などに通うからそうなる、となじる声と、自分が死んでも人間に種をつけてきたから後悔はない、と語る声がある。

なじる声は、そういっても、人間が六月ビラバナを食べて七折(ななさい・七折れ)の潮をかぶったら子は物にならない、という。そこで娘が六月その通りにすると、マッティブの子が下ったという。

マッティブはよく人をだますといわれている。人が小便をかけたりすると、小さなマッティブでも人に化けるという。女は男に、男は女に化けて人をだますという。それで、夜など小便をする時には、唾を三回かけてからするものだと、此処の人はいっている。

『日本昔話通観25』より要約

奄美の蛇聟入りの話。日本民俗文化資料集成20『蛇(ハブ)の民俗』にも紹介されている。話の構成は針糸-立ち聞き型の典型話だ。東国と比べても全く同じように語られており、不思議なものである。

マッティブ(マッテブ)が蛇で、毒のない蛇を指すという。普通は毒蛇を巻き殺してくれるとありがたがりもされるそうだが、このように人をよく騙すともされ、蛇聟の主役は概ねマッティブと呼ばれている。沖縄のアカマタに同様するようだ。七折の潮とは寄せる波七回分ということ。

ここでは、その払う時季が六月と語られている点を紹介しておきたい。おそらく旧暦五月の節句(に、ビラバナ・ニラを食べて、浜へ降り潮を浴びる)のことと思われ、これを「はまおり・はまうり」などという。沖縄のほうでは三月の節句だったようなのだが、奄美あたりだと概ね五月という。