七つの瓶

鹿児島県大島郡喜界町

喜界ヶ島(喜界島)の小野津に小高い岡があって、裾にお神山という繁みがある。その奥の大樹の蔭には七つの可愛い小さな瓶が睦しげに並んで祀られている。この瓶の中に水が絶えなければ翌年は豊作であり、乾き切ると凶作だという。その瓶にはこのような伝説が語られる。

昔、海の彼方の島に七つの子を持つ母があった。悪戯盛りの子どもらに困った母は、各々に瓶を与えて浜で遊んでくるようにいった。子どもたちが瓶を抱えて浜に行くと、小さな舟があった。これに乗り込んで遊んでいると、いつの間にか潮が満ち、舟の綱が切れてしまった。

日が暮れても子どもたちが帰って来ないので心配した母が浜に行ってみると、子どもたちの影もなく、舟を繋いでいた切れた綱が残るだけだった。舟はもう遥か沖に流されており、母は泣き狂った。そして、何処へ流れ着いても神と祀られるように、と祈って死んだ。

幾日か後、瓶を大事に抱えた子どもたちの死体が七つ、小野津に流れついた。子どもらは村人によってお神山の奥に厚く葬られ、その上に七つの瓶も並べられた。瓶は年の吉凶を報じるようになり、母の願い通り、村人に祀られることになった。

『旅と伝説』2巻6号/通巻18号
岩倉市郎「喜界ヶ島の伝説」より要約

竜蛇は全く出てこないし、話中特にそれを暗示するというモチーフもない。しかし、各地に見る「吉凶を告げる瓶」にはまま竜蛇伝説が付随して語られるものなので、この喜界島の七つの瓶のお話も連絡させておきたい。

竜蛇譚「ではない」ことで、竜蛇を抜いたときにどちらの方へ繋がっていく話なのかを示す例ともなるだろう。このような瓶は三〜九まで色々な数で据えられるが、ここは「七」だ。奄美の方は、天女に七人の兄弟がいたり、富(蛸等)を分け合う集団を「七軒」としたり、とかく七を重視する。