大工とハブ

鹿児島県大島郡龍郷町

大工の神や大工の神より上位の鍛冶の神を信仰している人は、ハブを神の使いであるといい、道でハブと出合っても殺すことはしなかったという。大工職人を怒らすとハブの災いを受けるともいわれ、ハブに咬まれると、「大工職人とけんかしなかったか?」、「大工職人と口よざわい(口げんか)しなかったか?」などと聞かれた。
ハブと出合うと、思いあたる大工職人に「あんたがハブと合わせたのだろう。」と、災いを除けてもらうように頼んだ。
秋名のS氏が、昔秋名川が氾濫した際、堤防の普及工事のためにキンチクを取りに行くと、キンチクやぶの中にハブが二匹おり、一匹は殺したが他の一匹を逃がしてしまった。家に帰り父にこの事を話すと、父は早速知り合いの大工職人に「そういう不吉なもの(ハブのこと)を見させてもらっては困る。今後このような事はしないでくれ。」と頼みに行ったという。
(「ハブと俗信」より部分)

『龍郷町史 民俗編』より

奄美では、造島の神が鍛冶であったといい、その末裔である鍛冶職人・大工職人は斯様にハブまで使役するという。本土では竜蛇が鉄を嫌うということで、何かとその恨みを受ける鍛冶なのだが、一線を画する感覚があるといえよう。