波の音をきらった神

和歌山県御坊市

昔、野島に八幡神社があったが、この神は海を流れて来た神だったので、波の音の聞こえない処へ行きたいと言われた。それで印南町畑野へうつし祀った。その時、神は「波の音聞かじがための山の奥声色かえて松風の音」と詠まれたという。ところが畑野は下肥が臭いと仰せられたので今の同町山口へうつし祀ったという。この神を海から揚げて、最初に仮屋を造って祀った家が仮家姓を名のり、宮のあった家(宮の世話をした家)が宮本姓を名のったといい、この一統が行かないと山口八幡神社の祭ができないことになっていたという。

出典:御坊市史第二巻
発行:御坊市

和歌山県ふるさとアーカイブ
「和歌山の民話」より

この八幡さまは最終的に印南町山口に遷した、ということになるが、現在も山口に八幡神社はある。神社庁のほうの由来にも「波の音をあまり好まず」「なおも波の音が耳障りなので」と同様のことが書かれており、実際社伝であるのだと思われる(最初に上がられたのは野島ではなく西畑だとあるが)。

詳しいことは現状なにも分らないが、ここでは「波の音を嫌う神」という点に関するヒントとして引いておいた。多く海に近い、海を守る神であろう存在がまま「波の音が嫌い」といって遷るのだが、海神格だとすればおかしな話ではある。

これが、この八幡さんは「この神は海を流れて来た神だったので」とその理由が一応語られている。なるほど海から来た神といっても、海の神であるのと「海に流された」神であるのとでは事情が異なるだろう。このあたりにヒントがあるような気がする。