東浅井の池

愛知県一宮市

百年程前、源兵衛という人がおり、毎日浅井の池へ釣りにいっていた。ある日、一匹の蜘蛛が池から出て来て、源兵衛の足に糸を巻いてまた池に戻った。そうしたことが一週間も続くので、源兵衛は蜘蛛に、正体を現さぬと殺すぞ、とせまって、蜘蛛を水に戻した。

すると、しばらくして池の中から周り数丈はあろうかというすっぽんが現れた。数千年を経たらしく耳まで生えていたが、源兵衛は今後の見せしめと、その片耳を切ってしまった。

数年後、村の貝一さんが、池の中から片耳のない蛇のような怪物ににらまれて、間もなく死んでしまった。さらに数年後、時之島の鬼十というひとが、池の近くの田に稲が五本ばかり浮いて枯れているのを見て、近づいてよく見ると、柳の大木が横たわっていた。その柳と思ったのは怪物で、白い腹を見せて動いた。これを見た鬼十さんも、間もなく死んでしまったという。

愛知県教育会編『愛知県伝説集』
(郷土研究社・昭12)より要約

今浅井町には浅井山公園とあって池が見えるが、これはもと「温故井池」といったといい、別かもしれない。そうなると、東浅井の池がどうなったかは現状不明。丈余の鯉であるとか、松の大木のような大蛇であるとか、この東浅井の池のヌシの話も色々にあるが、うち一話を引いた。

また、さらにそれが蛇のようにもなっており、蜘蛛から河童、河童から大蛇と三様をつなぐ話でもある。最後の稲が浮いていたりする描写は何のことかよくわからないが。