中川に吝嗇の地主がおり、梅ちゃんという可愛い娘を女中に雇っていたが、孤児であったためかこれを目に余っていじめていた。ある正月の餅搗きの時、梅ちゃんはつきたての餅が欲しくなり、主人にひとつだけ私にも分けてくださいと頼んだ。
ところが主人は癇癪を起し、怒鳴りつけて梅ちゃんを突き飛ばした。か弱い小娘は鞠のように転がり、煮えたぎった大釜に落ち悶死した。それよりこの家では正月餅米をふかそうとすると大きな白蛇が現れて邪魔をするようになった。
また、別の話もある。庄司山は長田庄司の一族が隠れ住んだ洞窟があるところだが、南郷のある者が源氏に密告したので、長田一族は討ち死にし、庄司も自刃した。その時、庄司の愛馬「白雪」は、健気にも主人の後を追って、自ら岩に背中を打ちつけ共に死んだという。
それからというもの、密告者の家で餅を搗こうとすると、忽ち空臼になってしまうのだという。
正月の餅の禁忌に蛇が登場している事例。この件は最終的には鏡餅が白蛇のとぐろの見立てなのか否かという話になり、ここでは蛇が餅になったりはしていないので、あくまで参考話ではあるが。
後段の密告者の家の話は「空臼」という別話だが、ほぼ同じ地域で正月餅の禁忌を語っている話として、何か関係があったのではないかと思い併せ載せた。
松崎町南郷には長田庄司(荘司・忠致か)一族が落ち延びてきたという伝説があり、その残念が赤蛇になったり、松の木に乗り移ったりなどもしている(「赤い蛇と白い蛇」)。
長田の蛇が祟るので、同地域の源氏に与した家は正月餅を搗けない、という話だったとしたら、皆一連のもの、ということになる。実際どうかは現状わからないが。