気田川通りに字赤谷の淵という所がある。この淵に龍神がいた。白鬚大明神という。雨を祈れば必ず験があり、龍神の形牛の如しといい、ここで漁をすると祟りがあるといわれた。（中道朔爾報告）
竜蛇と白鬚の神の関係というのも各所をまたいで大きな話になるが、ここでは「白鬚大明神という龍神」とはっきり言われている貴重な事例だ、という点のみ紹介しそれ以上はさておく。
今は、この「龍神」が「形牛の如し」と表現されている一点を強調しておきたい。静岡県下には竜蛇と池沼のヌシである牛とが重なり語られる事例が多々見えるが、この赤谷の淵のようなイメージが敷衍していたというならばそれらは重なりというより同じことだ、ということになる。
竜蛇と牛がはっきり同一だと語られている例としては（これは化けるのだが）、沼津市戸田の真城峠の池のヌシの話などがある（「池の平」）。
また、遠州の有名なヌシの池である浜岡の桜ヶ池のヌシも、皇円阿闍梨が生きながら龍と化し池に住まうようになった、という伝説とは別に、「牛が化けたもの」だという池のヌシの怪物が「桜の前」という姫を攫ったという伝説を持つ（「桜の前」）。