天文三年九月、福島の豪農金田家に二十歳ぐらいの美青年が来て、使ってくれという。青年は麦飯が大好きだが、蓼が嫌いであるらしく、あるとき蓼の冷や汁を出したらにおいを嗅いだきり、不機嫌になり、夕方にはいなくなってしまった。
ところが翌年九月にまた来たので、麦代起こしなど手伝ってもらったが、また蓼の冷や汁を出したところ、一口飲むか飲まぬかで血を吐き、北の方へ走り去ってしまった。
青年が来ていた時、金田家の釜蓋の上にお客の人数分の魚が置いてあったりしたので、竜神様の仕業だといわれていた。さらに翌年に、寝ている家人が足を引かれ、引っ張り出されそうになった。引いたのが件の青年で、蓼汁を食べさせた仇討ちだといったという。それでやはり竜神様だろう、と言い合われた。