辰野と樋口 長野県上伊那郡辰野町 昔朝日村の荒神山が伊那の東西両山脈の間を繋いで居た為めに、諏訪湖は此処まで一ぱいに水を湛えて居った。そしてその中にヌシの大蛇が住まって居た。ある年大洪水の折、荒神山の途中が切れて湖水の水は一時に天龍川へ流れ出し、其の跡が次第に涸れてやがて平地になった。そしてヌシの蛇は居所を失くしてそれも此処で死んでしまった。辰野と云う名前はそのために出来たのだと云って居る。そして荒神山が崩れて水が流れ出した所が今の樋口だと云うのである。 岩崎清美『伊那の伝説』(山村書院・昭8)より NDL このように、辰野町は昔は諏訪湖の端であり、それが破れたのだ、という伝説がある。この大蛇は祟って疫病を流行らせた(「樋口の八王子社」)。『辰野町の誕生と伝説』なる資料には、六月六日の荒神山の祭りの後嵐が続き、湖が破れたのは七月七日であったとある(資料そのものは未入手)。 またこれによると、信濃神二湖(しなのかむいのにこ)といって、諏訪の湖と伊那の湖(辰野町)があり、これが「一筋に入り江に結ばれて並んでいた」のだそうな。現状よくわからないが、もしかしたら諏訪の陰に隠れて見えにくくなっている大型竜蛇伝説の地なのかもしれない。 ツイート