安原の安養寺の境内に、中興開山の智鑑禅師の手植えという槻の木がある。この木には精がいて、住持が手入れをすると祟るという。前々代が木のこぶを伐って、在職四年でやめてしまった。伐られたこぶは寺にあり、伐り跡も残っている。
前代も枝を切ろうとして、途中でやめたが、十五、六年で住持を止めてしまった。槻の精は太さ一尺五寸もある二匹の大蛇で、前代はこれを見たのだという。
信州味噌発祥の地という安養寺に、今もこの槻の木(実は欅だそうな)はある。主幹はすでに朽ちているが、脇からの枝は大きく伸び、葉をつけている。その胴部を見れば、なるほどこういう話も生まれようという瘤だらけの異形の大樹だ。
安養寺は東隣の式内社:英多神社の神宮寺でもあるが、今は建御名方命を御祭神とする英多神社だが、往古は大物主命を併祀していたという。そのあたりとの関係も考えられるか。
ところで、御柱が蛇だというなら、大樹と蛇の伝説が多く語られそうな諏訪周辺なのだが、実はあまりこの関係を語る傾向は見えない。真田の信綱寺の杉には大蛇が住んでいたというが(「欄干橋の杉」)、あとはそのくらいか。