蛇松

長野県飯田市

昔、独り者の男が切石に来て、一人暮らしの老人の家で厄介になった。その男が熱で苦しんだとき、一人の娘が来て熱心に看病してくれた。おかげで男は良くなったが、老人のほうはポックリ死んでしまった。男と女は二人で暮らし始めたが、不思議なことに女は夜になるとどこかへ出かけ朝帰るのだった。

そのうちに女は身重となり、生み月になると、決して探さぬよう言って、お産のためにどこかへ行ってしまった。それがいつになっても帰らぬので、男はとうとう探しに出かけ、ある洞で蛇の大群を見た。

すると、その中の一匹の大蛇が生まれたばかりの蛇をいたわっていた。大蛇は男に見られたとわかると、松の木に登ってどこかへ姿を消した。そして洞の蛇の大群も見えなくなった。今でもその松の木は山の洞にあるが、蛇の祟りを恐れて人は手を出さない。

『鼎町史 下巻』より要約

鼎切石の話だが、松や洞の現状などは不明。蛇女房の話の型ではあるが、非常に特異な顛末といえる。そもそも蛇女房は間に生まれた子、その子孫の家が多く水神格である蛇との交渉権を持つ、という点に重点が置かれるものだが、生まれた子も蛇で皆去ってしまうのではそうもいかない。

あるいはこれは、男が蛇を助けたという前段の抜けた報恩譚であったのかもしれない。それならこの筋でも話は成り立つ。となると竜宮女房のほうに近いといえるか。そう思うと、天人女房の雰囲気もある気がする。