河口湖畔から御坂峠路にかかる西川の辺りに、樹木が覆いかぶさるようなうらぶれた水車小屋があった。そこには美しい粉挽き娘が住んでいて、河口の里御師の若衆たちには、娘に惹かれて穀類を背負って水車小屋に通い、言い寄る者も多かった。
ところが、この娘はこともあろうに蛇類をこよなく愛し、山で蛇を集めては小屋の周りに放ち飼いにしていたので、いつも長虫が群れ這い回っており、若衆はこれには手を焼いていた。そんな中、気丈な若御師がいて、蛇を醜い姿にすれば娘も蛇を嫌うのではないかと考えた。
そして若御師は娘の留守に小屋周りの蛇を捕まえ、一匹残らず片目をつぶしてしまった。すると、一天がにわかに掻き曇り、しのつく豪雨が降り出し、川瀬は滝と変わり木立は流され、山肌は崩れ山津波となって押し寄せた。
水車小屋は跡形もなく土砂に埋もれ、若御師も娘の姿も二度と見たものはなかったという。今でもこの辺りは蛇の好棲息地で、二メートル以上の大蛇が這い出して観光客の車を止めることも間々ある。
河口の山神社・金刀比羅神社のあるあたりに西川橋があるが、舞台はその辺りではないかと思う。話そのものはちょっと類話も思いつかず、全体的にも何を言わんとしたものなのかよくわからない。「だからこの辺りには片目の蛇が多い」という結末だったと思いはするが。
注意しておきたいのは「メツキイ・メッキイ」のこと。ここでその語が「片目」を意味しているのは間違いないだろう。東北のほうの方言に「めっこ(片目)」といったりするのにあたると思う。魔を狩る「めっけ犬」の伝説なども、これに連なる片目の犬の話だったのじゃないか。