小縄はかつて身延の分、その縄張りの範囲だったからそういうという研究家もいる。その小縄のある家に大小の刀があった。家宝であり、自慢にしていたが、話が広まって、泥棒に目をつけられた。泥棒は夜に忍び込み、難なく刀を盗み出してしまった。
ところが、脇に刀を抱えて山道を行った泥棒だったが、脇がぬるぬるする。鞘の塗りかと抱えなおすも、やはりぬるぬると動く。そこで夜目を凝らして見ると、なんと刀は二匹の蛇となって脇から抜けようとしているのだった。泥棒は悲鳴をあげて刀を投げ出して逃げたそうな。
そのあと、通りかかった村の衆が、道にのびている二匹の蛇を見つけた。このやろう、と石を投げると、パカッと音がして、一匹が二つに割れて光った。近づいて見ると、刀であり、鞘が割れたのだった。持ち帰って村の衆に話すと、盗まれた家はすぐに分かった。
こうしたことがあって、刀はよほどこの家を気に入っているのだろうと、一層大事にされたが、長い年月のうちに大刀のほうはなくなり、小刀だけが今もさびたまましまわれているという。