鴨狩の神官・内藤美濃守吉憲が富士の麓の祭の後、本栖で逗留してから早道をとって釜額村へ下る峠道を急いだ。峠近くの森の中で、大蛇に襲いかかられ、五穀豊穣を祈る神官だと諭したが大蛇は向かってくるので、美濃守はやむを得ず大蛇の首を刀で切った。峠を流れた大蛇の血が本栖湖を赤く染めたという。
美濃守が帰宅すると、妻が急病で苦しんでいる。発病の時刻は大蛇の首を刎ねた時間だった。それから家人に怪我人病人が相次ぎ、夢に大蛇が出た。大蛇は家中の者をとり殺すという。占ってみるとやはり峠で斬った大蛇の祟りであると分かり、大蛇の霊を屋敷神と祀ることになった。
峠の西下に古関川が流れているが、古関にも似たような話がある。地頭の若狭玄蕃頭が愛犬を連れて狩に行き、眠気を覚えた。犬が吠え噛み付くので玄蕃頭は怒り犬の首を刎ねてしまったが、その首の飛んだ先には玄蕃頭を狙う大蛇がいたのだという。犬を葬った「犬石」が今もある。