名刀・浪平行安

新潟県糸魚川市

昔、糸魚川の町外れに、刀鍛冶と娘が二人で住んでいた。娘のお菊は大変器量良しで、町の若い者は皆お菊の婿に、と思っていた。父の刀鍛冶も歳をとって、腕の良い若者を婿に欲しいと思うようになった。そこで、一晩に千本の刀を鍛えることが出来る者を婿にしよう、とふれた。

押しかけた若者たちもこれには閉口し、誰も来ないようになって三年がたった。そんなある日、風が強く吹き、海が鳴る中、一人の立派な若い侍が訪ねて来た。品のある若侍の姿を刀鍛冶も気に入ったが、彼は、一番鶏が鳴くまで、決して仕事場は覗かないように、という。

刀鍛冶は了承したが、気になって結局覗いてしまった。すると、若侍は居らず、恐ろしい大蛇がとぐろを巻いて、一心に刀を鍛えているのだった。刀鍛冶は何とかしないといかんと、鶏小屋に行き、止まり木に湯をかけ温め、日の出前に鶏を鳴かせた。

それとともに物凄い叫び声が上がり、天井を突き破って大蛇が天へ舞い上がって行った。仕事場には九百九十九本の刀があり、最後に打ったらしい一本は素晴らしい名刀で「浪平行安(なみひらゆきやす)」と銘が彫ってあった。

『糸魚川・西頸城の民話 第一集』
(NTT糸魚川電報電話局)より要約

浪平行安というのは実在の刀工、十世紀末に大和から薩摩に渡ったという橋口正国(の刀は現存しない)初代とする刀工一族で、明治まで続いている。一般には御子神典膳(小野忠明)が使った刀が浪平行安だという話が有名だろうか。

そういった薩摩の名工のことが、なぜか糸魚川でこのような伝説となっているのだ。この話そのものは各地に同じような話があり、津軽の方まで鬼であったり蛇であったりしながら語られる。糸魚川周辺では「浪平行安」という点が決まっているのが特徴だろうか(糸魚川にもまったく同じ鬼の話もある)。

それそのものはまた別に追うとして、今は類似のモチーフを持つ話から参照するものとして引いた。