新宿を守る竜神さま

東京都葛飾区

昭和五十六年三月のこと。新宿(にいじゅく)四丁目の路上に突然15メートルもある大蛇の姿が浮かび出た。舗装の偶然だろうと思われたが、それから塀を乗り越える大蛇を見たり、蛇の夢を見る人が現れたりと騒ぎになった。信心深い人が卵など供えると、きれいになくなるのも不思議だった。

近所の娘さんも大雨の後の夜に目を輝かす大蛇の姿を見て驚いた。そしておじさんを呼び、おじいさんは大蛇に、何を告げたいのか、と語りかけ、昔の新宿の様子を思い出していた。昔は柴又や亀有のほうまで見渡せる何もない土地で、子供たちは魚取りなどして遊んでいた。そういえば大きな池があった……

おじいさんはハッと思い当った。その大池は大正時代に埋め立てられたが、主の大蛇はこの四丁目を流れる用水に移っていたのじゃないか、その用水は最近下水道工事が進められている。大蛇は住むところがなくなって出てきたのじゃないか。おじいさんはそう考え、蛇に向かってきっと祀ろう、と約束した。

それから蛇はおじいさんの夢に出て、自分は古くから新宿を守ってきたものだと告げ、八大竜神としてお地蔵さんのそばに置いてもらいたい、といった。近所の人とそのようにすると、道路の蛇の姿は薄れていった。皆は八大竜神の石碑をよく祀り、供養を続けるようになった。

葛飾区児童館職員研究会
『葛飾のむかし話』より要約

この八大竜王の石碑は今もある(新宿二丁目)。一方、それは中川の氾濫から新宿を守った竜を祀ったものだ、ともいうが、そちらはまだまとまった話を見ない。ともかく、話の時代が興味深いところだろう。昭和五十六年といったら、スペースシャトルが飛んだ年だ。そこにいたって大蛇出現が騒ぎになっている。

しかも、それがアスファルトの舗装の寄りが蛇を見せたという当世風の出来事だ。土地を見れば江戸川と中川の間にあって、その水の動向にはきわめて神経質にならざるを得ないところだったろうが、道路の舗装がその感覚を呼び覚ますトリガーになった、というのも面白い話だ。