昔、いすみの山奥の小さな寺の和尚さんが遠くに行き、帰りに子どもらが騒いでいるのを見た。子どもらは小さな白蛇をおもちゃにしているのだった。情け深い和尚さんは白蛇を買い取って、寺に帰り、三日月の池に放してやった。すると池は居心地がいいらしく、蛇はだんだん大きくなっていった。
やがて池が狭くなるほど蛇は大きくなり、気味悪くなった和尚さんは「十年たったら帰ってきなさい、いい池を作っておくから」と証文を書いて蛇の首に下げた。蛇は喜んで山のほうへ入って行ったという。
それから十年、和尚さんはすっかりこのことを忘れてしまっていたが、夏の暑さに本堂の中で涼んでまどろんでいると、腰のあたりにぬるりと触るものがある。起きてみると、首に札を下げた大きな白蛇が、十年たったといわんばかりの顔をして和尚さんを見上げているのだった。
すっかり困った和尚さんは、蛇が脇を向いているうちに、証文の札の十年の十の字の上にちょいとノの字を入れ、千年としてしまった。そして蛇に「まだ九百九十年ある」と言ったところ、大きな蛇は和尚さんを睨みつけて山に入っていったそうな。(後段略)