水戸黄門の大蛇退治

千葉県松戸市

水戸黄門さまは魚釣りが大好きで、根木内に来ても宿の近くのいけす(池・沼)で釣りをなさった。ところがここでは半ときしても何一つかからない。どうしたかと思っていると、小さな山カカシがきて、黄門さまの指をなめ出した。これを見たお供の侍が、ふとどきと斬り捨て、いけすへ投げ込んだが、その時。

にわかにいけすの泥が天まで噴き上がり、ものすごい声で、よくもせがれの命を奪ったな、このままでは済まぬぞ、と聞こえた。供の侍も身震いする声だったが、天下の黄門さまはびくともせずに、主の意趣返しがあるだろうから用心するよう伝え、宿に帰った。

お供の侍たちが待ち構える中、丑三つ刻になって、寝ている黄門さまの部屋のケブ(煙)出し口に、いけすの主の大蛇が現れた。それは七つのおもて(顔)がある大蛇で、七つの口から火を吹いて襲いかかってきた。者どもであえ、という黄門さまの声に侍たちが駆け付けたが、十人がかりでも危ない。

そこで黄門さまが、火攻めにせい、と命じ、生木を燃した煙で燻りたてたので、さしもの大蛇も弱り、総がかりで捕らえられ、いかい(大きな)甕に閉じ込められてしまった。しかし、子を切られた主の無念を慮った黄門さまは、いけすの中島にお宮を建て、甕を祀った。七つおもての主だったので、七面様という。

岡崎柾男『松戸のむかし話』(単独舎)より要約

黄門さまの活躍というと常陸の話のようだが、水戸街道の通っていた松戸周辺にもこういった話が多い。根木内に宿があったというが、話の「いけす」は現在の小金原の団地北側の七面神社のことらしい(今はもう池はない)。甕を祀ることがよくある常陸と縁の話で甕、というところが目を引く(あるいは七面焼のことか)。

殊にこの根木内の話では「七面」から七つの頭の大蛇という存在になっている点が面白いだろう。これから振り返って、他所の七頭の大蛇の話はもしかしたら七面さんのことか、と検討していく必要もあるかもしれない。