ヘビに化けた安産の神様

千葉県銚子市

昔、高神村のおばあさんが、浜に行くと、桐の箱が寄ってきたので拾った。大切なものが入っているのだろうと、赤い腰巻を脱いで包み、家へ持ち帰った。そしてふたを開けようとすると、中から、今日お産をするから誰も見ないでくれ、という声がする。

おばあさんはたまげてしまい、箱を離れの部屋に置いた。見なかろうと思ったが、やはり気になり、障子に穴を開け覗いていた。ところがいつしか眠りこんでしまい、ふと気がつくと、いつの間にか箱のふたが開いて、中は空になっていた。

夜が明け、外に出ると、樽のような蛇のぬたばった跡があり、おばあさんはついていった。するとそれは応仁様の社に向かい、そこでは大蛇がお産をしていた。大蛇はおばあさんを見ると社の中に入ってしまい、それきり見えなくなってしまった。それから、この社にお参りするとお産が軽くなると信仰されるようになった。

銚子市教育委員会『銚子の民話』より要約

かつての高神村地区に現在八幡さんというのは見えないので、これ以上のことは分からない。『通観』には[蛇女房・目の玉型]の参考話として集録されている。しかし、生まれた子は何だったのか、それらが八幡と同体と思われているのかなど、重要な点が不明な話だ。

一般に海より寄り来て蛇だったというだけなら、それは竜宮さんとして祀られそうなところではあるが、そういった寄り神が突出して重要な意味をもつ土地柄であることを思えば、あまり色眼鏡で見るわけにもいかない。

なお、細かなところでちょっと指摘しておくと、「赤い腰巻」で包んだ、という点は気になる。もしそこに意味が持たされているなら、拾われた箱(の蛇)そのものに子の要素もある、ということになるかもしれない。