玄蕃山の白蛇

千葉県銚子市

愛宕町の一角に玄蕃山があり、今もうっそうとした小森がある。以前は人家もまばらなより暗い森だった。昔、ここに一人の旅人がやって来、病み難渋していたが、この山中に親切な家があり、旅人をもてなし看護を惜しまず、また旅立ちができるまでに世話をしてくれた。

旅人は感謝の念に堪えず、お礼にと、出発の前に小箱から思いがけない数枚の小判を差し出した。このとき、優しかった家人に魔が差した。見れば小箱はまだずっしりと重そうである。翌朝早く旅人は家を出るはずだったが、もうその姿が見られることはなかった。

ところが、修羅と化した家人が小箱を開けると、中に小判などなく、一匹の白蛇がとぐろを巻き、鎌首をもたげて起こっているのだった。その神々しさに、家人は自らの罪を恐れ、白蛇を拝すると、ひたすらに懺悔をした。そして、以後白蛇を家のご先祖として後の世まで祀ることを約束した。

すると白蛇は怒りを解いて、鎌首をとぐろの中に埋めた。それから家はかかさず供養をしたので繁昌し、後のヒゲタ醤油となって隆盛を極めた。玄蕃様の水揚げ場の工事をした人に聞くと、それは立派なもので、白蛇の紋章が付いていたという。

銚子市教育委員会『銚子の民話』より要約

文中あるように、これはヒゲタ醤油を開いた田中玄蕃家の話。六部殺しのような話が家を外から見た話であるとするなら、家伝の蛇信仰の話にこれが上乗せされてかくなったもの、ということになるだろうか。確かに旅人を殺す話と蛇が「ご先祖」と供養される筋は直にはつながっていないように見える。

しかしヒゲタ醤油が「蛇の紋章」を持っていた、というのは知らなかったが、どういうものだかわからない。大変興味深いが、現状不詳。ぜひ見てみたい。