大蛇と九郷用水

埼玉県児玉郡神川町

肥土の川原は今は洪水もなく草が生い茂っているが、昔は台風が来ると大水もたびたび出た。ある台風の後、よく晴れた中お百姓さんが川原の畑にくわ切に出かけた。ひと仕事して一服しようと、大水で流れ着いた大木に腰かけた。

すると、その大木が動き出し、実は天にもとどくような大蛇であったと知れた。百姓は驚いて腰が抜け動けなかったが、しばらくして我に返ると大蛇はおらず、その這った跡が東方に向かっていた。その筋が後に九郷用水になったという。

九郷用水については次のような伝もある。大昔一帯が日照りに悩まされることが多く、これを知った国造が金鑽神社にこもって、その惨状を訴え祈願したという。すると社殿に童子が現れ、自分が金竜となり神流川の水を導くゆえ、それに従い水路を掘るように、との託宣があった。

はたして翌朝、金色の大蛇が新宿附近の神流川に現れ、岸に上がると本庄市北堀まで進み、浅見山へ消えたという。(神川村広報「かみかわ」より)

児玉郡・本庄市郷土民話編集委員会
『児玉郡・本庄市のむかしばなし』(坂本書店)より要約

竜蛇が尾を引いて治水の(この場合は田に引く用水だが)プランを示すという、禹王以来の伝説が、こうして神流川に語られている。武蔵二宮(近世以降)・金鑽神社の神が竜蛇として現われているという貴重な話でもある。