坂上田村麻呂が大蛇を追って行ったが、はぐれてしまった。将軍が岩殿観音に祈ったところ、夢に六月一日の朝雪が降るが、その雪のとけたところに大蛇がいると告げられ、遂に大蛇を射とめた。その地を雪どけ沢といい、大蛇がはぐれた所に地蔵様があって、それをはぐれどうという。花嫁ははぐれるといってその前を通らない。(『川越地方郷土研究』第四冊)
田村将軍が岩殿の毒大蛇の棲家を突き止めたというその雪解け沢(「岩殿山正法寺縁由」)というのはこの「はぐれどう」付近と思われるが、これは岩殿からは少し西の笛吹峠南側あたり(鳩山町須江)だろう。
この「はぐれどう」の地蔵さまは今もあるが、もとよりの田村将軍大蛇討伐の伝説による存在というのではなく、そもそもこれは「羽黒堂」と書くといい、大蛇討伐と関係のない伝も色々にあるようだ。
ともあれ、ここではこういった嫁入り行列が避けるという、縁切り橋とか坂とかの伝が、大蛇討伐の伝を取り入れて語られているという点で引いた。常陸の宿魂石の伝など、この話の系にはそのような土地の標に引かれる傾向がある。