見沼を去った主

埼玉県川口市

見沼が開発されて間もない頃、一人の車夫が空の人力車を引いての帰り道、突然目の前に現れた美しい女に「成田詣をするので千葉まで乗せてほしい」と頼まれた。車夫は快く女を乗せた。ところが、印旛沼の辺りに来たころ、急に車が軽くなったので、不思議に思って振り返ってみると、女の姿はなく、座席が濡れて青くさい匂いが漂っていた。さては見沼の大蛇が開発によって棲めなくなり、姿を変えて印旛沼に移ったのだろうと村人はうわさした。それ以来、見沼の大蛇を見た者はいないという。

『川口市史 民俗編』より