熊谷はのどかな農村だったが、突然空の彼方から白い竜と黒い竜が現れ、田畑をずたずたに荒らしてしまった。二匹の竜の乱暴はその後も続き、困り果てた村人が相談していると、そこへみすぼらしい坊さんが通りかかった。腰に短刀を差したその坊さんは、話を聞くと、自分がその竜を退治しよう、という。
村人はみすぼらしい坊さんに竜退治など、と相手にしなかったが、坊さんは村はずれの古井戸のそばで一心に読経を始めた。やがて白い竜と黒い竜が現れ、坊さんが読経の声を大きくすると、二匹の竜が坊さんに襲い掛かった。
このとき、村人の一人が危ない、と叫び、その声に竜が気を取られた一瞬に、坊さんが大喝とともに二匹の竜に斬り付けた。傷を負った竜はひるみ、古井戸の中に逃げ込んだ。そこで、坊さんは古井戸にしっかりと蓋をし、村人が蓋の上に大石を置いて封じた。
これでもう大丈夫だと村人は喜び、お坊さんにお礼を言おうとしたが、もうお坊さんの姿はどこにもなかったという。