底なし沼の膳椀

埼玉県川越市

下小坂の北谷の沼は底なし沼というが、片隅に「お釜」という直径一メートルくらいの穴があり、会下山稲荷の立上がりの松の大蛇出入口だともいわれる。この沼はお祝い事の時など、膳椀や茶椀を何人前でも貸してくれるというので有名だった。

ある村の男もこのことを年寄りに聞き、喜び勇んで沼に行って二十人前の膳椀を借りることができた。しかし、返す時になって椀が一個足りず、面倒でそのまま返したところ、沼の主が怒り、以来二度と膳椀を貸してくれなくなった。

池原昭治『川越の伝説』
(川越市教育委員会)より要約

今それらしい沼は見えない。会下山稲荷というのも不詳。しかし、名細と称されたところ(やや西の小堤地区)に「立上がりの松」というのはあるかあったかしたらしく、名は見える。