蛇になって来たおかみさん

群馬県渋川市

仲の悪い夫婦がいて、年中喧嘩をしていた。そして、蚕のあるころ、ちょっとした事で喧嘩が大事となり、おかみさんが、死んで蛇になって化けてやる、といって家を出てしまった。幾日かして、おかみさんが死んだという連絡があったという。

その後、旦那は夢見が悪く、うなされた。そうしている間に盆となり、座敷に盆棚を飾ったが、その上に太い蛇がまるくなって、旦那をじっと見ているのだった。旦那は背筋が凍る思いをして、やっぱり化けて出たか、と震え声で言い、蛇を青竹につっかけると、外に投げ捨ててしまった。

ところが、蛇はすぐにするすると盆棚に戻り、また鎌首をもたげてジロリジロリと見る。また投げ捨ててもすぐ戻り、近所の人にも、盆なんで死んだおかみさんが化けて出たのだ、と噂になってしまった。さらには、盆が過ぎて間もなく、二度目にもらった嫁も死んでしまい、村の衆は、はじめに死んだおかみさんのばちだ、といったそうな。(北橘村)

酒井正保『前橋とその周辺の民話』
(群馬県文化振興会)より要約

北橘の話という。妄念ゆえに死んで蛇となり仇をなす、というだけであれば、いろいろな筋で枚挙にいとまなくある話だが、このおかみさんの蛇はそれらとは少々印象が異なる。

盆棚に蛇がとぐろを巻く、という光景の印象がひときわ強く、あとはその光景を筋立てるために並べられたもの、というようにも思える。すなわち、死んだ人が蛇になって盆に返ってくる、という点のほうが主となる話なのじゃないか、ということだ。