寺渡戸の五行川の近くに、年中涸れることのない沼があった。近くには岩清水稲荷があって、初午の日などは、近郷近在からの参詣者でかなりの賑わいを見せていた。それも、この沼には稲荷様が乗ると言い伝えられている川蛇様が住んでいるからで、初午の日に赤飯を供えるとたいそうご利益があると信じられていたからである。沼にはたくさんの魚も住んでいたが、それを捕ると川蛇様の祟りがあると恐れて、誰も沼に入ることがなかった。
ところが、ある時、三人の男たちが魚を捕ろうと沼に毒を撒いた。すると、沼の祟りがあったのか、三人ともその沼に落ち自分たちが撒いた毒を浴び体の痺れがとまらず、村にもいることができなくなってどこかへ行方をくらましたそうである。(『高根沢町の伝説集』)
町史には写真があるので、岩清水稲荷は今もあるようだ。蛇を稲荷と祀るという話はそれなりに各地にあるのだが、稲荷(お狐さんのことだろう)の乗る川蛇さまと語るというのは珍しいものかと思う。町史の解説では、陰陽道の「辰狐(たつこ)神」を引いて、竜蛇と狐の結び付きの古さを強調している。
現状これ以上詳しい話はわからないのだが、上州高崎には、那須野から来た九尾の眷族が、途中白蛇に川を渡してもらって上州に入れた、という由緒を持つ稲荷がある(「蛇渡り稲荷」)。高根沢はその経路と見ることもでき、よく参照すべき話だろう。