諸井に長者が居り、毎年綾機一駄を帝に献上するのが例だった。その綾絹は霜月朔日の明け六つに馬につけて出発することになっていた。ところが、その年に限って、明日つけ出すというのに日没を前に最後の一反が織り上がらなかった。
帝の召す綾絹故に、日没以降に織ってはならないのだ。織姫は一命を覚悟して、長者にこのことを告げた。長者はそう心配せぬがよい、と織姫に言い、自分が命に替えても日を呼び戻そう、と帝から戴いた金扇を開き、恐れおおくもと唱えながら日輪を招いた。
すると不思議や日輪はするすると空高く戻った。長者も織姫も驚いたが、これで綾絹を織りあげ、都へつけ出すことができた。しかし、この何代か後の長者が奢侈にふけり、滅んでしまったそうな。