昔米崎の塙に長者がおり美しい娘がいた。その娘に夜な夜な若い男が通うのだが、娘に聞いても正体を知らず、長者が見張っていてもいつの間にか忍んできて、明け方にはいないのだった。そこで、長者は娘に男の裾に糸を縫いつけておくように言い含めた。
明け方、気付かれぬように長者がその糸をつけていくと、三、四町も離れた三島神社の境内に入って行った。そして男は神主の家とは反対の境内の隅にある御手洗の池の方に消えていった。若者は三島の神の化身であったか、と長者は驚き、土下座してしばらく顔を上げられなかった。
その後、娘がどうなったのか、三島の神が引き続き忍んできたのか、それはさだかではない。長者屋敷というところからは、今でも土器類が出るという。