今は交通の便も良くなった潮来から十番のあたりは、昔は大小の江間が多くあって、丸太や木で造られた橋が掛けられて通られていた。その内に天王免という所がある(今も小字である)。
十番に親孝行の息子がいたが、潮来まで買い物に行った帰りに嵐に遭ってしまった。天王免まで来たところ、そこの橋が壊れて流されてしまっており、孝行息子は途方に暮れてしまった。すると、突然大きな音とともに今までなかった橋が掛った。
驚きながらも恐る恐るこの橋を渡った孝行息子が「ありがとう」と声をかけると、橋はまたどこへともなく消えてしまったという。村に帰ってこの話をすると騒ぎになり、それは水神森の主の蛇だったのだろう、とうわさされた。
十番というのは地名で、今だと霞ケ浦から常陸利根川を流れ出る水が外浪逆浦に流れ込もうかという所になる。天王免およびその水神森というのがどこにあるのかは現状不明。そのあたりにこういう話があったのだという。
どういう脈絡で水神森の蛇が孝行息子を渡してくれたのだかわからないが、そこは蛇の橋の話(「大蛇の橋」など)、のほうから参照するとして、問題はタイトルだ。「天王免のクロ」という話なのだが、話の中に「クロ」が出てこない。
単純に話の筋から考えたら蛇の名がクロであり、もし蛇を「くろ」と呼ぶ事例なのだとしたら大変興味深いのだが、この記述だけだとわからない。