よき沼

茨城県水戸市

昭和の初め頃まで、岩根町根本に「よき沼」という沼があった。昔、近くの正直な若い木こりが、沼の上の斜面で木を伐っていて、斧を沼に落としてしまった。斧がなくては仕事ができなくなると、若者は沼に飛び込み斧を探した。思ったよりも沼は深く、それでも必死に探していると、突然美しい姫が現れた。

姫は、探しているのはこの斧か、と金の斧を差し出した。正直な若者が、自分の斧は使い古しの鉄の斧です、と答えると、姫はその正直さに感心し、落とした鉄の斧と、金の斧を両方若者に与えた。それから若者は運に恵まれ長者となったそうな。

朝日新聞茨城版『いばらきの昔ばなし』より要約

「よき」とは斧のこと。沼はもうなく、標柱があるという。金の斧というと途端にイソップのようだが、存外にこういった展開を見せる日本の昔話もあるはある。とはいえ、やはり「よき沼」の典型となる話型とはいえないだろう。