カエルの娘

福島県相馬郡新地町

昔、沼倉にカエルのお大尽がいて、一人娘がいたが、年頃になってあちこちから縁談が来てもみな断ってしまうのだった。やれ釣り合わぬ、やれあんな家、と難癖をつけ、ではカエル以外でと思っても、クジラでは図体ばかり大きくてやんだ、鯛などいつも酔ってるように顔が赤くてやんだと、話にならない。

そんな折、笠野のお天王さまのお祭りがあり、カエルの娘もいそいそとお洒落をして出かけた。お天王さまは縁結びの神様なので、若い者が大勢集まるのだ。それで遊んで、すっかり暗くなってしまったので、カエルの娘は近道して水神沼の前を通って行った。

ところが、その時沼の主の大蛇が顔を出して、カエルの娘に一目ぼれしてしまった。大蛇はカエルの娘に嫁になれと迫るが、娘はにょろにょろした男なんかやんだ、と逃げる。大蛇は追いかけてき、嫁になれ嫁になれと迫るが、カエルの娘は必死で跳ねて逃げたが、木崎川が渡れず往生してしまった。

そこに、山居の雄カエルが一匹出てきて、娘カエルを背に乗せると、木崎川をぴょーんと跳び越えて、沼倉へ無事に届けてくれた。娘カエルは山居の雄カエルに一目ぼれしてしまい、めでたく結婚することになった。一方、振られた大蛇は娘カエルが忘れられず、それで今でも蛇はカエルを見ると、嫁になれ、嫁になれ、と追うのだという。

新地語ってみっ会『新地の昔話』
(新日本文芸協会)より要約

新地町は福島県浜通りの北端であり、水神沼というのは北隣の宮城県亘理郡山元町の水神沼のことである。木崎はその南側で新地町内、沼倉というのは不詳だが、さらに南だろう。水神沼の大蛇の話は、新地町のほうでいろいろに語られる。

その中で、このカエルのわがまま娘の話は伝説というより動物昔話だが、珍しい話の筋なので引いておいた。普通、なぜ蛇は蛙を食うのかという話になると、神様が動物たちを集めたとき、ノロノロ這う蛇を蛙が跳び越し追い越し、おれの尻でもくらえ、と馬鹿にしたのでそうなった、と語られる。

これは割と全国で普遍に語られるのだが、それをカエル娘に一目ぼれした蛇が追っているのだと説明する筋は珍しいだろう。蛙といっても、蔵を三つ持つお大尽だったり、お天王さんの祭で遊び、と妙に人間くさい描かれ方をするカエルではあるが。