三百年ほど昔、布川の村石に旧家があり、養蚕も他より行うので多くの人を雇っていたが、中に仙台から来た女の生んだトヨという娘がいた。トヨは美しく利口な娘に育ち、皆にかわいがられ、十五、六になると嫁にほしいという話がいくつも来たが、トヨは全く耳を貸さなかった。
仲の良かった梅か作のおせんという娘が訳を尋ねると、トヨは毎晩一人の美青年が訪ねてきて、深い関係なのだという。しかし、青年は肌が冷たく、笑う眼差しが凄く、また素性を明かさないのでトヨは心配で夜も満足に眠れないのだ、と言った。
そこで、おせんとトヨは相談して、青年の着物の裾に糸を縫い付け、翌朝たどってみることにした。すると、糸は裏の大木の穴に消えており、その正体が蛇であることが知れた。そして、これを聞いた近所の人々により、穴には火がかけられ、焼き払われてしまった。それ以来、美青年は現れなかったという。
ところが、それからこの旧家には不幸が続き、蛇の祟りではないかと噂が立った。それで、村人たちはこの祟りをなくすために、蛇神様を祀って供養し、それからは難を逃れたという。