蛇明神と大藤

福島県須賀川市

名面沢に、老いて亡くなった大蛇を祀った蛇明神がある。樹齢三百年以上という杉の根元に石祠があり、村人は年一度祭を行い、蛇に噛まれる者がないという。

杉の根元からは、大きな藤が生えていて、杉の木に大蛇のように巻き付き、気味悪くぞっとするようである。古い藤は六〇年以前に切られ、今の藤は二代目だが、一代目を切った人は直後病になり死んだそうな。二代目を切る人はいないだろうといわれている。

webサイト「ふくしま教育情報データベース」
古川明『長沼町の伝説』より要約

かつての長沼町の志茂の話。この杉が志茂の大杉(地蔵杉)として知られる大杉のことだとしたら(樹齢七百年以上というが)、その根元には多くの石造物が置かれておるので、中に蛇明神の石祠もあるのかもしれない。

ただし、現在の様子を見ると、藤が巻き付いてはいない(資料には確かに藤の巻いた写真があるが)。志茂の大杉のことではないのか、あるいは話に反して果敢にも二代目の藤を伐った人がいたのか。ちなみに名面沢(なめんざわ)も志茂地内の小字だが、谷戸状の土地になっている。

さらに、樹木の精が蛇聟のような振る舞いをする話がまま見える土地でもあり、あるいは蛇と樹木の同一感の強さというのがあるのかもしれない。藤というのは殊にその間をつなぎやすい存在だろう。