猪苗代湖の龍神 福島県郡山市 猪苗代湖の東寄りに、三把菅(さんばすげ)というとても深いところがあり、龍神が住んでいるといわれる。昔、湖南秋山の舟方衆が米を満載して上戸に向かい、三把菅を通りかかった際、舟が大揺れして湖面吸い付き、一同は真っ青になった。 舟は次第に沈み始め、これは龍神の祟りと、米俵を湖に投げ入れ龍神に奉献し、一同助け給いと祈ったところ、どうにか難所を抜け出ることができた。その後、三把菅を通る時は、どうか通らせ給いと祈るようになった。すると、水底から「通られい」と龍神の御声が聞こえるそうな。 郡山市教育委員会『郡山の伝説』より要約 どこどこを結ぶ間と色々な言い方をされる「三把菅」だが、概ね五万堂山から西の猪苗代湖を見て沖に数百メートルあたりの所と思われる。すなわち三把菅そのものは耶麻郡猪苗代町の内ということになるが、以下のそれぞれの話も、その話の採取地などの扱いとした。 霞ケ浦の三叉沖とか諏訪湖の水神淵(こちらは今はない)とか、大きな湖にはそういう場所があるものだ。もっとも、猪苗代湖の場合は龍神がいる、とはいっても竜蛇が舟を襲うというようなわけではなく、ではその猪苗代湖の龍神の社はどこか、といっても胡乱なところがある。 目にされる伝説があるのは大亀であり、それが猪苗代湖のヌシなのだ、という話とセットになっているらしくはある(「湖の主」)。三把菅に竜宮がある、というようなことだろう。また会津周辺にはまま亀が顔を出す。 そしてこのことは、猪苗代湖が磐梯山の噴火によってできた、という土地の強い伝説(実際はそうではないが)と、これにより湖底には沈んだ村があるのだという源郷感覚と結びついているようにも思われる(「湖底に沈んだ四十八ヶ村」)。 海に沈んだ平家の伝説に見るように、竜宮というのはつまりあの世である。ご先祖が沈んでいるから竜宮なのだ。猪苗代湖の三把菅への畏怖には、そういった面が表れているだろう。 ツイート