長坂の坂を下り、本合海の集落入口に白蛇大権現が鎮座している。お堂の欄間には大蛇の姿が刻まれていて恐ろしげだが、この神さまは歯の痛みを止めてくれる神として有名である。どんなに歯が痛くとも、この神さまにお参りするとたちどころに治るという。
この白蛇大権現は、白山大権現と関係が深いようである。白山さまは紙漉きの白山さんのように、吹き出物を治してくれたり、歯痛を治してくれるという。また、いぼ石で有名な萩野の石動神社も本社は加賀の白山神社であるという。
蛇神のもたらす験として「歯を治す」というのは決して現在では主たるものとはいえないが、あちらこちらに少しずつ見える。概ね蛇の脱け殻で頬を撫でるとよいということになるが、あるいは落雷した木から作った楊枝で虫歯を抉るとよい、というのも近いかもしれない。
この新庄ではダイレクトに白蛇大権現は歯を治す、といっている。そして、それは白山信仰の社だからではないかといっている(別に「民間信仰」の稿にも「もともとは加賀の白山を本社とする権現のようである」とある)。
白山神社が虫歯を治すというのは全国区でいわれることで、というより虫歯治しの本命が白山神社である。そうなると蛇が先か白山が先かという感じだが、この辺りには白山信仰そのものが「ながもの」と縁を持つケースもある。
文中にもある萩原の石動神社がそうで、白山信仰の社だといい、その御神体は鰻であるとも鯰であるともいう。また、実際に白山神社の白蛇が歯を治す、という事例も上州倉賀野のほうにあった(「白山神社の白蛇」)。