和尚が蛇を飼い、和尚が蛇に「今出ていく」「また帰った」と言うと、蛇は入り口で和尚を送り迎えする。ある夜和尚が黙って潜戸を開けて入ると、蛇は和尚でないと思って脛に噛みつく。噛まれたところが痛むと蛇は見えなくなり、翌朝土間に朝顔の蔓がたくさん置いてあって、そばに蛇が死んでいる。和尚は、朝顔を煎じて体を治し、朝顔の毒で死んだ蛇を塚を立てて弔った。(能田多代子『手っきり姉さま 五戸の昔話』未来社・梗概)
伝説というのではないが、本邦では珍しい型の昔話。蛇が恩がえしにその毒を消す薬草を教えるという話は、東南アジアなどではよく見るのだが、日本ではそれで毒消しの秘薬を持つ家となった、というような筋に少し見る程度だ。
概ね、蛇除けや毒消しを専売とする家があって、東北では米沢の静田家(「蛇のお守り」など)とか、仙台の花渕家などの話になる。それがこの和尚さんの話では、そういった「家伝薬の由来」という筋をはずして恩返しの一点を語っている。
また、よくわからないが、朝顔が毒消しであったとして、それで蛇が死んでしまうというのは要注意かも知れない。蛇がもたらす薬草とは、それで死んだ仲間の蛇が復活するようなものでもあるが、毒消しに特化するとニュアンスが違ってくるのかもしれない。