川上川のカナワ

門部:日本の竜蛇:九州・沖縄:2012.01.14

場所:佐川県佐賀市大和町
収録されているシリーズ:
『日本伝説大系13』(みずうみ書房):「淀姫さんと鯰」
タグ:竜蛇と鯰/鯰の禁忌/竜蛇と人魂


伝説の場所
ロード:Googleマップ

九州の阿蘇から佐賀の方にかけては鯰がまま神格化され、これが竜蛇譚とどう関係するのかというのも大きな問題なのだが、今回は鯰問題はさて置き、その舞台に現われる蛇の怪を紹介しよう。

川上川ではたくさん魚が獲れたが、カナワという怪物がいて、夜になると人でも何でも食ってしまうのが邪魔だった。カナワというのは歳をとった蝮蛇のことで、川の上を飛び回り、人間には燃えさかる一魂の炎と見えるそうな。
ある夜、それとを知ってか知らずかある親子が川上川に魚獲りに行った。面白いように魚が獲れたが、そこに突如としてカナワが現われ、親子は恐ろしさのあまり気を失ってしう。しかし、しばらくすると二人は無事目を覚まし、カナワもいなくなっていた。親子はこれは僥倖と家へ飛んで帰った。
翌朝になると放り出してきた魚が気になり、親子は川に戻った。すると、一尺ばかりの鯰が死んでいる。あまりにも腹が大きいので割いてみると、あのカナワが呑まれていた。この鯰がカナワと闘って自分たちを救ってくれたのだと知り、親子は手をあわせた。
後、親子はこの事を村人たちに告げ、淀姫神社に鯰を祀ると、今後一切鯰は獲らぬと誓いを立てた。今でも川上およびその付近のものは決して鯰だけは獲らない。

みずうみ書房『日本伝説大系13』より要約

與止日女神社鳥居
與止日女神社鳥居
レンタル:Panoramio画像使用

淀姫神社とは肥前国一宮の「與止日女神社」のことである。もとよりここのお使いが鯰なのだとされ、川上川の鯰を獲って食べたら死ぬこともあるとすら言われる。引いた話も『日本伝説大系』の「淀姫さんと鯰」という鯰の禁忌を語る表題話の類話の中におさめられている。

で、「カナワ」とは何だろう。蛇を「くちなわ(口縄)」ということを思えば「か−縄」なのだろうか。人魂のようだというのだから「火縄」か。よもや「かわいらしい蛇」の意だとされるカナヘビに類する名ではあるまい(笑)。

いずれにしても大変妖怪らしい変貌を遂げた蛇の怪である。霊魂が人魂として、タマであることに加えて尾を引いてにょろにょろ飛ぶものだとされるイメージの底には、人は死んだら蛇になるのだという信仰があったのではないかと思うのだが、実際人魂状のモノと蛇が結びついている例としてカナワは面白い。

カナワそのものが竜蛇の怪の中でもかなりレア度が高い(「怪異・妖怪伝承データベース」にもないと思う)。竜蛇バカとしては覚えておきたい一話である。

memo

川上川のカナワ 2012.01.14

九州・沖縄地方: