龍の残した鱗

門部:日本の竜蛇:近畿:2012.01.15

場所:大阪府枚方市:光善寺
収録されているシリーズ:
『日本伝説大系9』(みずうみ書房):「龍の残した鱗」
タグ:説法を聴く竜蛇/竜蛇の残す鱗


伝説の場所
ロード:Googleマップ

お寺にまつわる竜蛇の話で多いのは、高僧の説法を聴きに人に化けてやって来る竜の話だろうか。身延の七面大明神しかり、出羽貝喰池の竜神しかり。大概寺の守護となるのだが、枚方の光善寺には鱗を残した竜女がいたという。

光善寺
光善寺
レンタル:Panoramio画像使用

龍の残した鱗:要約
昔、寺のあるあたりは梓原深淵という大きな底なしの沼で、千年の大蛇が棲んでいた。そこへ蓮如上人がやってきて、路傍の石に腰をかけ、里人に日々説法をするようになった。するとある日、梓原深淵の大蛇が一美人に化けて、里人に混じって上人の説法を聴くようになった。
そしてその大蛇は忽ち説法の功徳に感じて、梓原の池を上人に献じて自らは昇天した。上人はそこでその池を埋めて今の光善寺を創立した。山号を淵埋山というのはここから来ている。
ところで大蛇は昇天する際に、金色の巨鱗三枚を遺した。上人はこの鱗を梓原深淵の名残りである寺の池の傍らに埋め、五輪塔を建てた。それで光善寺の庭園の池を龍女の池といい、その脇の五輪塔を蛇塔という。

みずうみ書房『日本伝説大系9』より要約

蓮如上人
蓮如上人
レンタル:Wikipedia画像使用

この話は二つのモチーフによってできている。前半竜蛇が説法を聴きにくるのは先に述べたようにお寺には良くある伝説。後半「鱗を残す」というのはこれまたよくある伝説だが、別に仏教的な伝説に限らず語られる。

類話に狭山市の狭山池の話が収録されているが、池の中の鍬(蛇の嫌う鉄気)を拾ってやった五兵衛爺さんが、池のヌシの大蛇が化けた娘から鱗を三枚もらうという話で、お坊さんは出てこない。この鱗は旱天に取り出すと雨を降らせるそうな。

有名どころでは鎌倉北条氏の家紋。北条三つ鱗は北条時政が江の島弁天に祈願し、弁天から三枚の鱗を得たという話しにちなむ。大蛇討伐の戦利品の場合もある。鎮西八郎為朝は黒髪山の大蛇を討ったが、その鱗を積んで歩いた牛は重さのあまり死んでしまったそうな。

いずれそのような「竜の鱗」の話も紹介していくが、今回注意しておきたいのは前半部分。これは結果的には「(人の形をした神々が)竜蛇を倒す」という話とあまり変わらない、という点だ。要するに信仰対象の形而上化が進むということである。

面倒な議論は別の機会に譲るが、ここを境に「自然を竜蛇として仕えていた巫女」は「水神に供される人身御供」というイメージにシフトするのである。あるいは乱暴だが女の宗教から男の宗教への転換点を示していると言っても良い。

説法を聴きにくる竜蛇は大概竜女であり、高僧に「その姿(人の姿)に化けていたのでは昇天させてやれない、もとの姿に戻りなさい」と言われる。これもまた「女の宗教が暴かれる(折口)」ひとつの光景だったのではないか。竜蛇が変質する場面には、このテーマがまとわりつく。

memo

龍の残した鱗 2012.01.15

近畿地方: