温泉寺の無縫塔

門部:日本の竜蛇:中部:2012.01.18

場所:長野県下高井郡山ノ内町 温泉寺
収録されているシリーズ:
『日本の伝説3 信州の伝説』(角川書店):「温泉寺の無縫塔」
タグ:竜蛇の卵/丸石/磐座


伝説の場所
ロード:Googleマップ

竜蛇の卵が出現するのは海辺ばかりではないはずだ。山を母の竜蛇として生まれてくる「タマゴ」のイメージがあったのではないか。私はそれすなわち磐座信仰じゃないかと考えている。その原初のイメージを伝えるかもしれない面白い話がある。

(温泉寺は)禅宗の寺で、嘉元年間虎関禅師が草創したのが、のちに衰えたので弘治年間に佐久市の貞祥寺の徳忠が再興したといわれている。この寺の境内に無縫塔がある。卵形の塔身をもつ石塔だが、こんな話を伝えている。
志賀高原の大沼池の大蛇が乱暴をして竜王にたしなめられたので、修養をしようと思って若僧に姿を変えて、温泉寺の住職の弟子となった。業を終えたので、恩に報いるために毎月立派な膳や椀を寺へ届けた。
これを盗んだ者があったので、そのときから贈物はなくなり、大沼池から丸石が寺の境内まで流れてくるようになった。そうすると、住職が死ぬか転住するようになった。そこでこの石を無縫の塔といって境内に祭った。

角川書店『日本の伝説3 信州の伝説』より引用

そもそもこの無縫塔と住職の代替わりという伝説は、写真家の三好さんに静岡県牧之原市の大興寺の話として教えていただいたのだった。大興寺と周辺のことはブログにまとめられている。とくに「無縫石の生まれる川原」の光景は百聞は一見に如かずとしか言いようがないので、是非参照されたい。

「生まれたときが死ぬるとき」(webブログ「風と土の記録」)
「miyophoto」(三好祐司オフィシャルウェブサイト)

そして大興寺の話がなんで出たのかといえば、私がまた先に言ったような磐座は竜蛇の卵の擬きだったのではないかなどとおだを上げていたのが原因なのだけれど、大興寺の無縫石が生まれ出る現場の写真を見せていただいて唸ったものである。

もっとも、大興寺の方は特に竜蛇伝説というわけでもなく、隔靴掻痒の感があったのだけれど、信州の温泉寺に見事に竜蛇と接続する話があったというわけだ。しかも大沼池といったら黒姫伝説という大型竜蛇伝説のあるところである。

温泉寺
温泉寺
リファレンス:遊楽ながの画像使用

山が母竜蛇であり、その山肌から生まれる丸石・磐座が「竜蛇の卵」と考えられたのではないか……と私は言いたいのだが、直接それを示唆するような話は未だ見つけていない。この温泉寺の伝説はひとまず一歩前進の一話ではあるだろう。しかし、まだまだ決定打には遠い。

この話は「竜蛇と鐘」や「竜蛇と甕」のキーワードを持つ話と「蛇の卵」というイメージで接続してゆくのだと漠然と考えてはいる。でも、そのタマゴがこちらにはっきり姿を現すのはもう少し先であるのかもしれない。

memo

温泉寺の無縫塔 2012.01.18

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