伊豆の道祖神の概略の方で紹介されなかった伊東の道祖神を見ていこう。
湯川の道祖神
伊東駅から湯川の鹿島神社へと向う途中に道祖神さんの一群がある。湯川でも塞の神と言うが、別名「おんぞんさん」とも言っていたそうな。お地蔵さんの訛りだろう。
興味深いのは、ここ湯川でもかつてはドンド焼きが盛大に行われていたと言い、また、その際地区同士の子供らの争いも大変だったと言うのだが、その時子供らは野バラの木を切ってきて「サイカチバラ」と言って、喧嘩道具に使ったという。相模大磯のドンド焼きの藁積みを「サイト」と言うが、これは才戸などとも書かれるが、道祖戸(サイト)であり、「塞の神の場(戸)」のことだろうとされる。サイカチバラのサイも塞の神のサイだろう。
ヤブコギなどしていてこの野バラに行く手を遮られたときの面倒さと言ったらない。要は茨のことなのだが、意図的に茨で道を封じる、そのような「塞」があったのかもしれない。
静海八幡神社の道祖神
静海町というところに単立の小さな八幡神社があり、境内の隅に(裏通りに面して)写真の道祖神さんがある。その背後に赤い祠が見えているが、これは伊東の漁師がよく祀る疱瘡稲荷である。ここの道祖神さんも疱瘡神との習合が強いものかもしれない。
ところで「道祖神の持ち物」というのも大変興味深いテーマで、笏・剣・宝珠・薬壺・合掌……と色々なのだが、私はここの道祖神さんには大変注目している。この像は「桃」を持っているのではないか。『せえの神さん』でも、桃持ちの像の可能性は指摘されているが、一覧の中で桃を持つと明記されている像はない(ここ八幡の道祖神は扱われていない?)。いずれにしても、もしこれが「桃」ならば、大変希少な例だと言えるだろう。
渚八幡神社の道祖神
道祖神さんは「門の神」のように据えられることもある。上の写真は渚町の八幡神社の社頭だが、鳥居の前両脇に道祖神さんがおる。まさに「門の神」だろう。伊東では昔は「削りかけ(ヌルデの木などを削って作る御幣)」を「門入道」と言って道祖神さんに供えたそうだが、むしろ門入道が道祖神さんの原形のひとつだろう。削りかけを道祖神に供える次第は関東一円にも見えるがこれも同様で、石造物となる以前の道祖神の姿、ということだろう。