455 竜の恩返し

『捜神記』

むかし巣県(安徽省)に、揚子江の水が堰を切って流れ込んだことがあった。やがて水が引き、もとの河道にもどったが、あとに残った水たまりに、重さ一万斤もあろうかという巨大な魚がいて、三日たって死んだ。郡民一同これを食べたが、一人の老婆だけは食べようとしなかった。すると不意に老人が現われ、その老婆に向かって、
「この魚はわしの息子だったのじゃ。運悪くこんな災難にあってしまったが、お前だけは食べようとしなかった。わしはお前にたっぷり礼をしてやろう。いいか、もし町の東の門のところにある亀の石像の目が赤くなったら、この町は必ず陥没するのだぞ」
と言うのだった。老婆はそれ以来、毎日門まで調べに出かけたが、町の子供がそれを見てふしぎに思い、わけを尋ねるので、老婆はかくさずに話してやった。すると子供は、老婆をだましてやろうと、亀の目玉に朱を塗りつけた。老婆はそれを見るなり、あわてて町から逃げ出したが、そこへ青い着物を着た子供が現われて、
「ぼくは竜の子だ」
と告げ、老婆の手をひいて山に登った。やがて町は陥没し、湖となってしまったのであった。

訳:竹田晃『捜神記』(平凡社ライブラリー)より原文


『捜神記』より
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