304 慶忌

『捜神記』

王莽の建国四年(一二年)、池陽(陝西省)に身長一尺あまりの小人の影が見えた。車に乗っている者もあれば歩いている者もある。いろいろな物を手に持っているが、その大きさも実物を同じ役割で縮小したものであった。この怪異は三日間続いてようやくおさまったので、莽は縁起の悪いことと気にしていたが、やがて反乱軍が日ましに勢力を得て、莽はついに殺されてしまった。

『管子』には、
「数百年を経た涸沢や、川筋がいつまでも変らず、流れも絶えない谷には、慶忌が生ずる。慶忌は人間のような姿をしていて、身長は四寸、黄色い着物を着、黄色い冠をかぶり、黄色い傘をさしている。そして小さい馬に乗って勢いよく走るのが好きで、名前を呼ぶと、百数十里の向こうから一日のうちに帰って来て返事をする」
とある。してみれば、池陽に現われた影は、もしかすると「慶忌」だったのかもしれない。また、
「水の涸れた小川には蚳(ち)が発生する」
とも言われる。蚳というのは、一つの頭にからだが二つついていて、形は蛇に似ており、長さは八尺ある。そしてその名を呼んで、魚やすっぽんを捕って来させることができるのである。

訳:竹田晃『捜神記』(平凡社ライブラリー)より原文


『捜神記』より
『捜神記』より参照される話の一覧。