275 川の中のふしぎな木

『捜神記』

呉のころ、葛祚が衡陽(湖南省)の太守をしていたとき、切り倒した大木が川を横断するように浮かんで怪異を起こすという事件が、郡内に起こった。住民は廟を立てその木を祀ったが、旅人がここで祈願をこめれば木は沈む。そうしないと浮き上がって来て、船が壊されるのだった。

祚はほかへ転任することとなったとき、斧をたくさん用意した。民のなやみを解消してやろうと考えたのである。あす出かけようときめた日の晩、川のなかからがやがや人声が聞こえて来た。行ってしらべてみると、その木が動き出し、流れに乗って一里ほどくだり、入江のなかに落ちついたのである。以後は船旅をする者が顛覆の心配などせずにすむようになった。衡陽の人びとは祚のために碑を立てて、
「正しい徳によって災いをはらったので、神木さえ移った」
と刻んだ。

訳:竹田晃『捜神記』(平凡社ライブラリー)より原文


『捜神記』より
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