083 青洪君

『捜神記』

廬陵(江西省)の欧明は、行商人の仲間にはいっていたが、彭沢湖を渡るたびに、いつも舟の積荷をいくつか湖に投げこんで、
「これはごあいさつのしるしです」
と言うのであった。

数年たってからまた湖を渡ると、突然湖のなかに広い道ができて、その上に砂ぼこりがまいあがったと思ったら、数人の役人が馬車に乗って、明を迎えに現われた。
「青洪君よりお迎えにさしつかわされた者です」
まもなく先方に着いた。役所の建物があり、門のところには役人や兵隊がいる。明はふるえあがったが、役人は、
「こわがることはありません。青洪君は貴殿がいつも礼儀正しくなさるのに感心されて、貴殿を召されたのです。きっとどっさりごほうびをくださりますぞ。だが、貴殿は受け取ってはなりませぬ。ただ『如願』(願いごとが叶う)をくださいとお願いしなされ」
と言ってくれた。

明が青洪君に拝謁して、「如願」を希望すると、青洪君は明のあとについて行けと命じた。「如願」とは、青洪君の腰元の名だったのである。明はそれを連れて帰ったが、願いごとはなんでも叶い、数年のうちに、大金持になったのであった。

※彭沢湖 今の鄱陽湖(はようこ・江西省)のこと。

訳:竹田晃『捜神記』(平凡社ライブラリー)より原文


『捜神記』より
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