069 足にはいりこんでいた蛇

『捜神記』

沛国(江蘇省)の華佗は字を元化、またの名を旉(ふ)という。

瑯邪(山東省)の人、劉勲が河内(河南省)の太守をしていた。勲には二十近くになる娘があったが、左足の膝の裏がわにできものができて、困っていた。かゆくはあるが痛みはなく、いちど治っても数十日たつとまた出て来る。こんな症状が七、八年もつづいていたのだった。そこで、佗を呼んで来てしらべてもらうと、佗は、
「これは簡単に治ります」
と言って、米ぬか色の犬一匹と駿馬二頭とを用意させた。そして犬の頸に縄をかけて馬につなぎ、馬に犬を引っぱって走らせた。馬がくたびれると交代させる。かくして馬二頭で五里以上も走らせた。犬はもう動けなくなっている。それをまた人に引いて歩かせ、前と合わせてけっきょく八里あまりも引きまわした。そうしておいてから娘に薬を飲ませる。たちまち娘は、前後も知らずにすやすやと眠りこんでしまった。

それから大きな刀で、犬の腹を後脚のつけ根より少し前から真っ二つに断ち切ってしまった。その切り口を、娘のできものと向かいあわせ、二、三寸離して置いた。しばらくそのままにしておくうち、やがてできものから蛇らしきものが現われた。そのとき、蛇の頭へ横ざまに錐を突き通すと、蛇は娘の足の皮のなかでしばらくのあいだ身もだえしていたが、やがて動かなくなった。そこで引き出してみると、長さ三尺ばかりの正真正銘の蛇である。ただ、眼の穴はあるが瞳はなく、また逆鱗であった。あとはきずぐちに膏薬を塗っておいたところ、七日で治ってしまった。

訳:竹田晃『捜神記』(平凡社ライブラリー)より原文


『捜神記』より
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